越境EC向け関税の基礎知識を総まとめ|中国・アメリカ・台湾など主要国別に紹介
『越境ECを始めたいけど、関税のことがよくわからない…』
『アメリカや中国などに荷物を送ると、税金はいくらかかるの?』
『ひょっとして関税の手続きも越境ECの販売者がやらないといけない?』
越境ECを始めるにあたり「関税」の知識は非常に重要です。
越境EC販売者が関税を知らずに販売すると、あとでトラブルになるかもしれません。
今回は越境ECの事業者が必ず知っておくべき「関税」について、基礎知識や注意点について解説致します。
コラム記事の後半では、越境EC事業者の主要販売ターゲット国である、中国・アメリカ・台湾などの越境EC、関税事情についてもふれていますので、ぜひ最後までお読みくださいませ。
※今回のコラム記事で掲載している情報は記事公開日(2021年11月1日)時点になります
越境ECにおける関税の基礎知識
越境ECにおける関税の基礎知識を学ぶ上で、そもそも関税とは何なのか改めておさらいしておきましょう。
財務省が定める関税とは「輸入品に課される税」と定義付けられています。
関税は、歴史的には古代都市国家における手数料に始まり、内国関税、国境関税というような変遷を経てきましたが、今日では一般に「輸入品に課される税」として定義されています。
関税は各国の税収となり、関税の徴収を担当する行政機関は「税関(Custom)」です。
関税額、関税率は世界均一ではなく、国ごと、物品の品目ごとにことなり、国によっては同じ品目であっても輸出国や原産地でかされる税率もことなることがあります。
越境ECにおいては、自社が取り扱う商品の品目に該当し、なおかつ販売ターゲットとする相手国の関税率を調査しておく必要があるでしょう。
関税の算出方法
関税は世界のどの国においても、輸入時に商品と一緒に必ず添付される「INVOICE(インボイス)」の申告価格をもとに算出されます。
INVOICEを日本語で直訳すると「送り状」となりますが、日本人にとっての「送り状」といえば宅配便で発送する際に荷物に貼る伝票と混同しかねません。
あえてINVOICEを厳密な日本語に近い意味合いに訳すと、いわゆる「納品書」であり、輸入貨物の内容、数量、価格が記載された書面のことを指します。
関税はINVOICEに記載されている価格の総額をもとに、各国の関税率表に定められた所定の税率が課されることになります。
たとえば、海外のユーザーが10,000円のハンドバッグ(牛革と仮定)を1点購入した場合、INVOICEに記載される金額は10,000円です。
仮に関税率が10%の国のユーザーに販売した場合、ユーザーが荷物の受領時に支払う関税は1,000円となります。
つまり、ユーザーは日本から10,000円のバッグを購入した場合、合計11,000円を支払う計算になるのです。
越境ECの販売者は、自社のECサイトに出品している商品がユーザーの手元に到着する時にいくらのコストになるのかを考慮し、販売価格を設定しなければなりません。
関税の徴取目的とは?
関税を徴収する目的は国によってことなりますが、今日の日本においては「税収」および「国内産業の保護」です。
税収は簡単に理解しやすいものの、国内産業の保護とはどういうことなのか理解しにくい方もいるかもしれません。
関税をめぐって度々話題となる「アメリカ産牛肉」を例に検証してみましょう。
日本の牛丼チェーンやファーストフードのハンバーガーなどに使われている原材料は、ほぼ安価なアメリカ産牛肉が使われています。
アメリカ産牛肉の関税率は数年前までは「38%」前後でしたが、2021年では「25%」と、関税の変動が激しく、メディアで度々取り沙汰されています。
一般消費者としては、アメリカ産牛肉を使った外食の店頭価格が安い方が助かりますが、実はアメリカ産の牛肉ばかりが市場を独占することは、日本全体にとってメリットになることばかりではありません。
なぜなら、外国産ばかりが売れてしまうと、国内の畜産業者や精肉店などの食肉取り扱い事業者が衰退してしまう恐れもあるからです。
多くの国内事業者が衰退すると、政府にとっては税収が入らない、雇用も失われる懸念もあります。
つまり、関税は「国内産業の保護」を前提に、海外と日本の内外価格差が大きくなりすぎないよう、各物品の品目ごとに適性と定めた税率が適用されることになっているのです。
関税率は流動的に変動する
関税率は国と国との取り決めによってことなり、流動的に変動しています。
とくに各国で主力になっている産業の関税率は、両国の首脳同士の話合いや政治情勢によって、その都度に変動することも珍しくありません。
また、ときに関税は国の産業の保護だけでなく、経済制裁の役割を果たす武器になりえることもあります。
たとえば、2018年の春ごろに起こった中貿易摩擦の問題です。
アメリカが中国に対して追加関税を発動したことは、経済制裁の1つです。
「追加関税を課される=輸入コストの上昇=中国製品が高くなる、売れづらくなる」という図式になりますので、中国にとっては経済的な痛手となります。
一方で、中国も負けずにアメリカからの貨物に対して「報復関税」として関税率の引き上げに着手しました。
以上のように、関税は国家間同士の取り決めであると同時に、政治情勢で随時変動する可能性があります。
越境ECビジネスの事業者は、常にニュースやインターネットなどで、最新の国際情勢にアンテナを張っておく必要があるでしょう。
越境EC人気主要国別の関税事情総まとめ
ここでは越境ECで人気の主要国別関税事情をご紹介致します。
※上記リンクを選択すると移動(ジャンプ)できます
アメリカ
アメリカでは、2019年8月22日よりUS$800(日本円で約88,000円)以下の個人輸入についての関税は、非課税です。
アメリカでは「パイロットプログラム(※1)」と呼ばれる小包や郵便貨物を積載する前に事前申請することで、個人輸入の特別関税プログラムが適用されることとなっています。
本制度は米国政府が対海外から米国への個人輸入を推奨する目的が含まれており、越境ECも対象です。
※1 参考:米国税関、個人輸入向けの事前申請パイロットプログラムを開始
対アメリカへの発送でUS$800以上の高額商品を扱う場合は、US$2,500までであれば略式輸入として簡易な通関手続きでユーザーに届けることができます。
近年、アメリカの各有名ECプラットフォームが日本からの購買を強化しており、越境ECの販売ターゲットの主要国としやすい条件がそろっています。
さらに、アメリカのユーザー側も他国のセラーに比べ、日本のセラーには安心と信頼を寄せていますので、越境ECの事業拡大を狙うにはぴったりの市場といえるでしょう。
ポイント!
アメリカにおける品目ごとの詳しい関税率表は、アメリカ国際貿易委員会の公式サイトをご覧ください。
■関税率表:アメリカ国際貿易委員会
https://hts.usitc.gov/current(英文)
台湾
台湾では2,000台湾ドル(日本円で約6,800円)以下の少額輸入貨物については、関税が免除されています。(2021年現在)
2017年までの台湾では、少額輸入貨物は3,000台湾ドル(日本円で約10,200円)まで関税が免除されていましたが、2018年から少額輸入貨物の関税免除が引き下げられた形です。
台湾はアジアの中でも熱烈な親日家が多く、経済レベルや日本からの物流スピードなどを加味すると、日本の越境EC事業者が最も力と入れたい販売ターゲットです。
ただし、台湾では2,000台湾ドル以上の高額商品を海外から輸入する場合は、個人であっても所定の個人輸入通関手続きが必要なため、越境ECの利便性がいい国とはいえません。
台湾で個人輸入の通関手続きには、税関に台湾の身分証明書(ID)の提示が必要となりますので、ユーザーには事前に個人輸入の税関手続き、関税額を知らせておく方がベストです。
中国
日本の越境EC事業者が、中国本土へ個人宛ての貨物を発送する場合、1個口あたり総額1,000元(中国人民元:日本円で約18,000円)までとなっています。
ただし、家電品やパソコンなど1点で1,000元を超える場合であっても、個人使用と認定された場合は個人輸入通関が可能です。
輸入関税額の総額が50元以下の場合は、免税となります。
個人輸入で通関する方法は、受取人であるユーザーが「We Chat」などで身分証明書(ID)のコピーを通関業者にアップロードで提出する方式です。
中国本土は人口の多さ、急速な経済発展により、近年あらゆる国が市場を狙う越境ECの激戦区となっていますが、関税事情は決して良くないことで知られています。
また、中国本土は日本からの物理的な距離は遠くないものの、紛失や破損など物流事情の悪さ、個人の通関手続きも複雑です。
そのため、中国の越境ECに本気で取り組むには、日本から発送してユーザーに個人輸入の通関を行わせる方式よりも、現地の保税区域か、国内に物流拠点を設ける方式を採用する方が現実的でしょう。
香港・シンガポール
香港やシンガポールは、いずれも自由貿易港(フリーポート)のため、越境ECを含む海外からの購入品には関税がかかりません。(酒、たばこなど一部の商品は課税あり)
香港やシンガポールは親日国で、かつ日本製品が大好きな富裕層も多く、日本の越境EC事業者にとって良質な販売ターゲット国です。
いずれも東南アジアのハブ空港でもあることで、日本からの物流スピードも速く、国際配送でもトラブルになる確率が極めて低いことでも知られています。
越境EC初心者でも取り組みやすいことから、まず香港、シンガポールから着実にステップアップしていくことも有力な選択肢の1つかもしれません。
世界各国の関税率を調べるならWorldTariffが便利
WorldTariff(ワールドタリフ)とは、世界175か国以上の関税率情報を調べられるオンラインツールです。
通常、WorldTariffを使うには有料契約が必要です。
ただし、経済産業省が管轄しているジェトロ(日本貿易振興機構)のホームページ経由であれば、無料でWorldTariffを利用できます。
ジェトロからWorldTariffを無料で利用するには、ユーザー登録が必要になります(くわしくは下記リンクをご参照ください)。
https://www.jetro.go.jp/theme/export/tariff/
越境ECの関税における注意点
越境ECの関税における注意点は次の3点です。
- 販売相手国の関税知識を事前に調査
- 購買時に関税額をユーザーに告知
- 法改正・情勢の変動情報を入手する
販売相手国の関税知識を事前に調査
越境ECの事業者にとって、販売ターゲットとする相手国の関税知識を事前に調査しておくことは必須となります。
越境ECの事業者が各国の関税知識を知っておくべき理由は「適切な価格設定」を行うためです。
輸入時に関税が発生する国に在住しているユーザーにとって、関税は商品代金と別に必ず発生する費用となります。
販売者側としては、適切な価格設定を行ったつもりでも、関税率が高い国に在住しているユーザーにとっては、越境ECで日本から購入した方が割高になる可能性も否定できません。
価格設定は、販売者にとって越境ECの売上を左右する重要な項目となりますので、価格設定に直接影響する各国の関税事情は事前にきちんと把握しておきましょう。
販売時に関税額をユーザーに告知
越境ECの事業者側は、商品の販売時に関税額をユーザーに告知しておくのがベストです。
海外からネットショッピングを頻繁に利用するユーザーのなかには、すでに自国の関税について熟知している方もいますが、関税知識を熟知している方の絶対数は多くありません。
もし、販売者が関税のことを告知せずに海外のユーザーに商品を販売した場合、ECサイトに掲載されている価格と違うことから、トラブルに発展する恐れもあります。
越境ECは言語や習慣の違い、国際配送など、ユーザーにとっては国内で購入するより少なからず不安要素の多い買い物であることは間違いありません。
越境ECの売上を伸ばすには、ユーザーの不安要素を少しでも削減することです。
可能であれば販売相手国の関税額は、購入時に効率良く告知できるオペレーションを組めることがベストといえるでしょう。
法改正・情勢の変動情報を入手する
越境ECの事業者は、販売ターゲットとする相手国の関税率について、常に最新の情報を入手しておく必要があります。
前述のように、関税は永久的に同じ品目に同じ税率が適用され続けられる訳ではなく、政治情勢や国家間同士の話合い、法改正で関税率が変動する可能性があるからです。
日本で税率などの法改正がすすめられた場合は、実施~適用されるまで最低1から2年かかることが通例ですが、諸外国では政府で法改正が決まれば翌月から即実行されるケースも少なくありません。
世界中の関税率の最新情報を調べ続けるのは困難ですが、販売主要ターゲットとしている国、よく注文の来るユーザーの国の関税率に関する最新情報は、随時アンテナを張っておきましょう。
越境ECで使える日本発海外向け関税・通関代行業者3選
越境EC事業者が海外のユーザーへ商品を発送するとき、国際宅配会社に配送を依頼することで通関手続きも全て代行してくれます。
越境EC事業者側は通関のために何か特別な作業をする必要もなく、国際宅配会社に荷物の中身が記されたINOVICE(インボイス)を渡すだけです。
ここでは、越境ECで使える日本発海外向け関税・通関代行業者をご紹介致します。
Fedex
出典:Fedex
Fedex(フェデックス)は、世界最大手の国際物流会社です。
この物流会社はアメリカ発企業のため、とくに対アメリカへの物流スピードの速さに定評があります。
Fedexはネットワークの多さから、世界の主要都市向けに通関手続きを含み、通常1~2日以内に荷物が到着します。
そのため、越境ECを忘れる早さでユーザーに荷物を届けることが可能です。
DHL
出典:DHL
DHL(ディーエイチエル)は、ドイツ発の国際宅配会社です。
本場のドイツでは政府管轄の郵便局と連携しており、安心と信頼、物流スピードに定評があります。
世界228以上の国と地域の配送ネットワークを持っていることから、EMS(郵便局)や他社でカバーできない国、地域への配送にも対応が可能です。
クロネコ国際宅急便
クロネコ国際宅急便とは、日本の大手宅配便企業であるクロネコヤマトが運営する国際物流サービスです。
日本の越境EC事業者がクロネコ国際宅急便を使うメリットは、やはり日系サービスならではの安心感、信頼感といえるでしょう。
日本側の輸出窓口を担う担当者の対応品質も定評があり、通関手続きにニガテ意識を感じている越境EC初心者企業にも、わかりやすく丁寧に対応してくれます。
まとめ
今回は越境ECの事業者が必ず知っておくべき「関税」について、基礎知識や注意点についてお話させて頂きました。
まとめますと、関税とは「輸入品に課される税」のことです。
関税は世界のどの国においても、輸入時に商品と一緒に必ず添付される「INVOICE(インボイス)」の申告価格を元に算出されます。
関税を徴収する目的は国によってもことなりますが、今日の日本においては「税収」および「国内産業の保護」です。
越境ECの関税における注意点は次の3点です。
- 販売相手国の関税知識を事前に調査
- 購買時に関税額をユーザーに告知
- 法改正・情勢の変動情報を入手する
関税率は国と国との取り決めによってことなり、流動的に変動しますので、越境EC事業者は最新情報をテレビやネットなどでアンテナを張っておく必要があります。
越境ECで人気主要国の個人通関規定は次のようになります。
▼スマホの場合は横にスクロールしてご覧ください
国名 | 個人通関規定 |
---|---|
アメリカ | ・台湾ドル2,000ドル(約6,800円)まで免税 (超えると個人通関要) ・個人通関は受取人のID要 |
中国 | ・個人通関は1,000中国元まで (関税額50元以下は免税) ・個人通関は受取人のID要 |
香港・シンガポール | ・無税 |
上記を踏まえ、越境ECで使える日本発海外向け関税・通関代行業者は以下の3社です。
- Fedex(フェデックス)
- DHL(ディーエイチエル)
- クロネコ国際宅急便(ヤマト運輸)
越境ECの関税知識は、原則自社が取り扱う商品の品目のみを販売ターゲット主要国の知識だけに抑えておけば、とくに難しいことはありません。
越境ECの関税について疑問点がある場合は、ジェトロ(日本貿易振興機構)などに問合せをすれば回答してくれます。
わからない点は曖昧にせず、必ず専門家に相談の上、正確な知識を身に付け、貴社の越境ECビジネスにお役立てください。
まずは無料でご相談ください。
お問い合わせ・ご相談や、公開後の修正依頼などに関しては、いずれかの方法にてお問い合わせください。
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※受付時間 9:00~17:30